1.買戻特約とは
買戻特約(かいもどしとくやく)とは、不動産の売買契約と同時にすることができる特約で、買主に対して払った代金及び契約費用を、売主が買主に対して返還することで売買契約を解除することができる、売主側に認められた権利です。
売買による所有権移転登記とともに買戻特約も登記することができます。実際には、売主が都道府県、住宅共有公社、住宅公団の場合に付けることが多かったようです。公的な機関が相場より安価で住宅を供給する目的で分譲する際に、転売防止策を講じる必要から付けられることの多かった特約です。
買戻特約は永久に買戻しができるわけではなく、法律で最長10年間と定められていて、延長することもできないため、最長でも10年経つと効力がなくなってしまいます。
しかし、効力がなくなった買戻特約であっても、自動的に登記が抹消されることはなく、買戻権者と不動産所有者が協力して抹消手続きをする必要がありました(共同申請)。
2.従来までの買戻特約の抹消手続き(相続登記の際に発見した場合を念頭に)
当事務所で買戻特約が抹消されずに残っていることを確認する機会が多いのは、相続登記の手続中です。相続登記のご依頼を受け、不動産の登記簿の内容を確認すると、この買戻特約の登記が残っていることあります。
当事務所がある高島平地域では、高島平団地が昔の日本住宅公団(今の都市再生機構(UR))からの分譲であったり、戸建の住宅でも日本住宅公団から分譲された土地もあったり、日本住宅公団名義の買戻特約が多い印象を受けます。
相続登記の手続き中に買戻特約が残ったままであることが分かった場合は、依頼者に説明すると、抹消手続きもご依頼いただくことがほとんどです。
相続登記が完了した後、新所有者からURに抹消書類の発行依頼をすると、URから買戻特約の抹消に必要な書類一式を郵送してくれますので、その書類を用いて法務局へ抹消登記申請します。このあたりのやりとりは地域で異なることもあったようですが、当事務所で取り扱ったときは「買戻期間満了証書」「買戻権放棄証書」などの書類と委任状等が郵送されてきました。住宅供給公社の買戻特約の抹消の際は、公社まで書類を預かりに出向いた経験があります。
3.法改正によってとても簡単な手続きに
従来のやり方でも抹消手続きは問題なくできていましたが、すでに効力が無くなっていることが登記簿を見ても明らかなのに、上記のようなやりとりをするのは手間でした。法改正により令和5年4月1日からは、上記のようなやり取りは一切不要になりました。
登記簿を確認し、売買契約から10年が経過していることが確認できれば、買戻権者の協力なしに、所有者だけで抹消手続きをすることができるようになりました。
また、買戻特約はその特性上、登記簿を見て効力がないことが明らかであると判断できますので、抹消登記申請にあたり、買戻権者側の書類は不要です。
つまり、
URや住宅供給公社とのやり取りをせず、所有者が単独で抹消登記申請をすることができるようになった。
ということです。
4.登記申請書の例
※1 権利者は不動産の所有者です。
※2 義務者は買戻権者です。登記簿上の買戻権者の住所氏名を記載します。
→この義務者の表記は悩ましい部分でしたが、以下の理由により当事務所では登記簿上の表記のみを記載して申請し、無事に完了しました(東京法務局某出張所)。
(疑問点)
当事者が法人である場合、通常は住所、氏名(名称)、代表者氏名、会社法人等番号を記載します。しかしそうすると、抹消登記にあたり、承継等に関する証明書を法務局で取得する必要が出てきますが、そもそもそこまでする必要があるのでしょうか。
(理 由)
次の①②③の理由から、登記申請書の義務者の表示は登記簿上の記載そのままでよく、代表者や会社法人等番号の記載も不要であると判断しました(あくまでも私見です)。
今後通達などが出て違う結論になる可能性もありますが、それまではこの方針で申請しようと思っています。
①買戻特約は最長10年の権利であり、これを超えて延長することもできないことが法律に規定されています。今回の法改正は、この買戻特約の性質を鑑みたうえで、10年を超えた買戻特約は確定的に消滅している蓋然性が高く、登記権利者側の負担を減らすために単独抹消を認めても買戻権者の権利を侵害することは可能性は低いという観点から置かれた特則であろうと思われます。買戻権者の所在不明までは要件として求めていないのも、他の権利とは異なり買戻権が確定的に消滅している蓋然性が高いことから、登記権利者に過度の負担を課さないようにしているものと考えられます。
②買戻特約の単独抹消登記の完了後、登記官から登記記録上の住所に宛てて通知を送ります。登記記録上の宛名に送れば足りるという点から、買戻権者の現在の情報を調べ上げて申請書に記載する利益は乏しいものと考えられます。
③この抹消登記には原因日付が不要です。原因日付があると抹消原因が生じた日と買戻権者に合併等の承継が生じた日の前後が手続きにも影響してきます。しかし、形骸化した権利を簡易に抹消できるようにするという制度趣旨を考えると、合併等があったとしても移転登記は不要なのではないかと考えられる(原因日付がないのは日付の前後は判断しない、という趣旨とも考えられます)ことからも、調査は不要なのではないか、との結論に傾きます。
とはいえ手続上気になる点が何点かあるのも事実なので、機会があれば法務局へ照会をかけてみたいと思います。
5.当事務所にご依頼ください。
今回の法改正の結果、相続登記のご依頼時に買戻特約が残っていることが判明した場合、相続登記と同時に抹消登記も申請することができるようになりました。相続登記の準備ができれば買戻権者とのやり取りをすることなく登記申請ができるため、スピード感をもって登記手続を完了させることができます。もちろん買戻特約の抹消登記のみのご依頼もお待ちしております。
ブログ記事もあります → 買戻特約登記の単独抹消登記が完了しました。
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